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2017.09
【実話】ウシガエルの飼育、犯罪の一部始終。
2013年、夏。
川岸に立つと、そこには無数の小魚が泳ぎ、透き通った清流が川底を揺らしている。
僕は小1(当時)の長女と一緒にザリガニを捕りに川に来ていた。
ザリガニは、流れがゆるく泥でにごり藻がはびこる川で生活を営んでいる。
ここまできれいな川だと、お目当てのザリガニちゃんはいないかな…
そんなことを思いながら、川べりに向かって目を凝らした。
いた。
ザリガニの後ろ歩きは魚の遊泳速度に匹敵するほど速いが、前歩きは異常に遅い。そんなおっそい前歩きで、ノコノコ川の隅っこをお散歩中だ。
そ~っとタモを近づけ、目標をロックオン。
バシャ!
やった、一撃必殺。
その後はまったくザリガニの気配を感じなくなってしまったので、ザリガニがいそうな少しにごりのある場所を探して歩いた。
巨大オタマジャクシ出現
・・・なんだ、アレ。
ザリガニではない。
全然違う。
ナマズか??
見つけたのは、オタマジャクシ。
ただ、サイズが異常にデカい。
大きいのだと、全長15cm以上はありそうだ。
そんなのがウヨウヨいる。
まさにそこは巨大オタマジャクシの集合住宅「オタマンション」だった。
アンゴロモアの大王
川岸からは届きそうもないので、僕は川に入ってオタマンションに近づいた。
何組かの世帯が、近づく恐怖の足音に敏感に反応し、家を捨てて逃げ去った。
しかし、人類の終末予言を鼻で笑う多くの人間たちのように危機意識の甘いオタマジャクシ世帯が依然として居間でおくつろぎ中だ。
そんな平和ボケしたオタマどもよ。
お前たちはあの予言を忘れてしまったのか。
2013年7の月。( ゚Д゚)2013?
天から恐怖の大王が降ってくる。
もう手遅れだ。
お前たちは、アンゴルモアの大王をよみがえらせてしまったのだ。
僕はあわてふためくオタマたちを次々と捕獲し、バケツ送りにした。
バケツが養殖うなぎの水揚げみたいにウニョウニョとなったところで、平和ボケしたオタマたちへのおしおきは終了することにした。
小っちゃい足が生えている少し成長した数匹のオタマは、今回の混乱を招いた責任を取らせ、わが家での服役を課すことにした。残りの子たちは川に釈放である。
これを教訓に、今後は緊張感を持って生活するのだぞ?!
飼育開始
刑務所の看守も囚人に感情移入することがあるそうだが、僕も数日もしないうちにすっかり彼らのことを気に入っていた。
どんなに触っても崩れないプリンみたいな柔らかさ。
見た目はだいぶキモチワルイのに、でっかい体に小っちゃいお口と小っちゃいあんよ。
このアンバランスさが可愛さまで感じさせる。
一匹いたドジョウはすぐに天に召されたが、他の子たちは煮干しやパンや米などを食べてすくすく育ち、1か月経つころには、いちばん早熟だった子がしっかりカエルになった。
ケースの中でジャンプして天井をボカボカ叩くので、もっとのびのび飛び跳ねたいのかなと思い、たまに外に出して散歩もさせてやった。
でも、逃がしはしない。
それはエゴではない。
尻尾がなくなってむしろ小型化したが、元々があれだけ巨大なオタマジャクシ。
きっとパワーのあるカエルにちがいない。
そんなカエルを「そこら」に放したら、「そこら」の生態系を破壊しかねない。
だから今さら逃がすわけにはいかないのだ。
巨大オタマジャクシの正体
ところで。
こいつら、何者なんだろう。
僕はインターネットで、このカエルの正体を調べた。
ウシガエル。
うすうす気づいてはいたが、どうやら間違いないようだ。
これが分かってから、「大きくなるよ~」とわが家では、困惑と期待の入り混じった盛り上がりを見せた。
家で飼いきれなくなったら、職場(塾)に持って行こう。気持ちわるがる生徒もいるかもしれないが、生徒たちにその成長を見せるのもいいかもしれない。
じゃあ、ちゃんと育てなきゃな。
僕は、ウシガエルのちゃんとした飼育方法を検索した。
が、そこで分かったのは、
もっともっと重要で深刻な事実だった。
犯罪行為の事実を知る
ウシガエルは「侵略的外来種」に指定されており、特定外来生物法で飼育は禁止されていて、これに違反したときの罰則は…、
懲役3年以下
もしくは
300万円以下の罰金。
マジか。
そんな重い罰を受けるなら、いっそもっと大きな犯罪で捕まりたい。
「カエル育てた」て…(苦笑)
・・・・・。
知らなかったでは許されない
たまたま捕ってきたオタマジャクシがウシガエルだった。
それが違法とは知らずに育てていた。
知らなかったんだから許される?
否。
「知らなかった」が許されるなら、違法だと知らなかったといえば殺人だって許されるではないか。
食品の産地偽装問題が明るみに出るたび、多くの経営者が「知らなかった」と言う。
そして、いつも思う。
うそつけ。
事実がどうであれ、「知らなかった」では許されないことが世の中にはごまんとある。
閻魔大王への告白
法治国家の善良なな国民である僕は、途方に暮れつつも県の自然環境課に問い合わせた。
もはや、自首をする犯罪者の心境だ。
ドクン… ドクン…
僕は胸の鼓動を押さえつつ、電話口の向こう側にいる“閻魔大王”に罪を告白した。
「すみません。川でオタマジャクシを捕ってきて育ててたら、カエルになったんですけど…。どうもウシガエルみたいなんです。」
閻魔大王はさらりと言った。
「特定外来生物ですね。」
(分かっとるわ…だから電話しとるんじゃ。)
そんな思いを押し殺し、僕はこれから言い渡されるかもしれない過酷な裁きに耳を傾けた。
「すみません。…どうしたらいいですか?」
「そうですね~。原則的には、駆除していただくことになります。」
(こ、殺せと…?)
エサをあげ、成長を楽しみ、散歩までさせていた可愛いペットちゃんをこの手で殺せと言うのか。
なんと残酷な!
「く、駆除ですか。…それって、うぅ…。職員の方に引き取っていただくことはできませんか?」
「ご自身でお願いしたいのですが…抵抗ありますか?」
抵抗あるよっ!
ありありだよっ!!
僕は心の声を、息をしないことでくいとめた。
「…………。」
「子どももかわいがって育ててたんです。」
「ウシガエルについてご説明差し上げます。」
唐突に、閻魔大王はそう言うと、ウシガエルの平均寿命が7~8年で、17~18cmほどに大きくなることや大きな声で鳴くこと、地域の生態系を滅ぼす危険性、その捕食能力の高さなどをいろいろ説明し始めた。
ずっと飼い続けるのは困難なことや自然環境保全にとっての危険度を話して、駆除する必要性を分からせようというのだろう。
それは分かる。頭では分かるのだ。
心の整理がつかないままに、半分うわの空で話を聞いていた僕だが、「参考までに」と付け加えられた言葉が、僕の耳を通り抜け、一気に脳を突き刺した。
「・・・ウシガエルは食用ガエルでして・・・・」
!!!!!!!
ええええええええええ~!
く、食えと!?
「いやいやいやいやいや。もっと無理です!」
僕は思わず口をはさんだ。
「え?」
おそらく、閻魔大王も「食べろ」という意味で言ったのではなかったのだろう。
何が???って感じのリアクションをされた。
閻魔の裁き
「いや、すみません。あの…、駆除以外で何か方法はありませんか?」
僕が聞くと、閻魔大王は困った声で、「う~ん」と言っていたので、僕はダメもとでこう聞いてみた。
「元の川に戻すっていうのはダメですか?」
なぜこれがダメもとか。
実は、ネットで同じようなことを質問している人がいて、やけに詳しい回答者に「捕ってきた場所に帰すことも許されない」と説明されていたのを読んでいたのだ。
その質問に、閻魔大王は優しい口調でこう話し始めた。
「とにかく、ご近所に放すなど生息範囲を広げることはしていただきたくないんですね。原則は駆除していただきたいので、こちらから『元の川に帰してください』とお願いすることはできませんが、今申し上げたように、とにかく『生息範囲を広めない』ことを守っていただければ、大きな問題にはなりません。そういう意味では、元いた川に帰すというのは『広めた』ことにはならないかもしれませんね。」
キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!( )キタ( ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━!!
事実上のOK発言。
僕は、最初からそう言ってくれなんて思う余裕もなく、お礼を言って電話を切った。
裁きは下された。
可愛いウシガエルちゃんは処刑をまぬがれ、寛大にも「帰郷」という判決が言い渡されたのだ。
彼らの帰郷を遂行することで、僕自身の罪も問われることはない。
ありがとう。閻魔大王。
帰郷、そして別れ。
翌日、ウシガエルを元の川に帰しにいこうと長女に話した。
ウシガエルは「よそからやって来た侵略者であり、昆虫やザリガニはもちろんのこと、ヘビやネズミなど動くものなら何でも食べる悪魔みたいな生物である」と…
言えるはずがない。
「すんごい大きくなるから、エサとか足りなくて死んじゃうとかわいそうだから。」
そんな理由を伝えて、休日に長女とウシガエルの故郷の川に行った。
川岸に座り、水槽のふたをあけてお別れの言葉をかける。
げんきでね。
あんまりたべすぎちゃだめだよ。
娘の優しい言葉に、ウシガエルたちも心なしか別れがつらそうに見える。
お米や煮干しなどを食べて育った彼らが、生きた獲物をちゃんと捕獲することができるだろうか。
ろくに泳ぐ練習などできずに育ってきた彼らが、流れる川をちゃんと泳ぐことができるだろうか。
いや、自然界という世間の激流に立ち向かうキミたちは、こんな穏やかな川の流れなどものともせずに乗り越えていかなくてはならない。
水槽を横倒しにして、川にウシガエルを放す。
ちゃぽん…
仰向け状態で流されていった。
く、駆除?!
(おわり)
それではまた。
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